モラハラの記憶

2回目の離婚調停④子どもの変化




 

「もう一つだけ、夫に伝えてほしい事があります」

私は席を立ち上がる調停員さんに声をかけた。

二人の目がこちらを向く。

それを待って、私は言葉を繋いだ。

 

「以前の面会交流で、夫がおもちゃを子ども達にたくさん与えていました。

子ども達は喜んでいましたが、毎回交流の度におもちゃを買っていったり、面会交流の間に自由に買い与えることは控えてもらいたいんです。

子ども達がそれに慣れてしまって、我慢が出来なくなったり、おもちゃの金額がだんだん高価になってしまうと、私では歯止めがかけられないのです。

しつけることも難しくなってしまうので、今後は控えてほしいんです。」

私は一気に言葉をつづけた。

 

「う~ん・・・そうだよねえ・・・でも、旦那さんも会ったら嬉しくて買ってあげたくなっちゃうよねえ・・・」

男性の調停員さんが、苦笑いをした。

 

そうなのだ。

確かに、私が言っている事は相手の気持ちとずれている。

だが、正直子どもの事を考えると、言わずにはいられなかった。

 

息子の変化

面会交流の時、夫は息子に、おもちゃを買ってきていた。

それは、以前電話で息子が夫にお願いしていたものだった。

当然、息子は大喜び。面会交流が終わった後も、大事に大事に遊んでいた。

そして、面会交流中、何度も夫と息子は私の前から離れて行った。

そして、大量のガチャガチャのおもちゃを手に、満面の笑みで戻ってきた。

当然、私は驚きを隠せなかったが、笑顔で喜ぶ息子に、何も言う事が出来なかった。

それからというもの、息子の「買って買って」攻撃が、変化を見せ始めた。

以前はおもちゃをねだる息子に「今日は買わないよ」と言っても、それで終わっていた。

だが、面会交流が終わってから、そこで終わらなくなったのだ。

買い物での変化

面会交流でおもちゃを欲しいだけ買ってもらった息子は、「パパにならおもちゃを買ってもらえる」と学習したようだった。

私はそこまでおもちゃを買う方ではない。

なぜなら、もう十分おもちゃはあるし、毎回買っていては、今あるおもちゃを大事にしなくなってしまう。

その方針で、子どもに我慢をさせることが多かった。

一方、夫は何でも子どもが欲しいままに買っていた。

だからだろう、ある日の買い物で、「買って買って攻撃」をかわした後、息子がつぶやいたのだ。

「パパに買ってもらおうっと」

その言葉に私は固まってしまった。

これまで子ども達にしつけていたことが、夫の思いでダメになってしまう。

何でもパパにお願いすると叶えてもらえる。

子どもにとってこれほどまでにいい存在はないだろう。

だが、これから成長し、ほしいものも高価になっていく中で、自分の欲求を我慢できない子になってしまうのではないか。

それは避けなければならない事だと、私は思ったのだ。




調停員さんへのお願い

「夫が子ども達に買ってあげたい気持ちはわかります。それはこちらとしてもありがたいとは思っています。

でも、しつけの面からも、そういったおもちゃなどの贈り物は、お誕生日やクリスマスなどのイベントの時だけでお願いしてはもらえませんか?

食べ物とかはいいですが、おもちゃを買ってばかりいると、段々と我慢も今あるおもちゃも大切にできなくなってしまうかもしれません。

ほしいものをすぐに買ってもらえるという構図が出来上がってしまってからでは、私ではそれを変えていくのは難しいと思います。

しつけの面でも、夫には協力してほしいのです。」

私の説明に、調停員さんも納得したようで、すぐに夫に伝える事を約束してくれた。

そして、しばらく席を外すようお願いされた。

先ほどの部屋に、弁護士さんと戻り、ほっと一息をつく。

一息ついた後、

再度調停員さんに呼ばれ、先ほどの部屋に向かった。